二重氷山(Double Iceberg)モデル試論 ― ダブルダイヤモンドの盲点
水面下のデザイン ― ダブルダイヤモンドから、二重氷山モデル(Double Iceberg Model)へ
試論
本稿は、ダブルダイヤモンドと氷山モデルの交差点で生まれた、デザインプロセスについての試論である。“What’s Underneath” の問題意識 ——表に出る 10% よりも、水面下の 90% のほうが重い—— をデザインプロセスに持ち込むための、ひとつの作業ノートとして読んでもらえれば。
ノートに、見慣れたダブルダイヤモンドが描いてある。Discover、Define、Develop、Deliver。デザインプロセスの共通言語となった、あの図形だ。
その日、僕はそこに何かを書き加えていた。ダイヤモンドの中心を貫く、一本の横線。線の上には “Explicit”、線の下には “Implicit & tacit”。そして “water line” という走り書き。
自分で紙に線を引いたその瞬間、何かが変わった。
この一本の線で、見慣れた風景がまったく違って見えた。僕は仮にこれを 二重氷山モデル(Double Iceberg Model) と呼ぶことにする。
ポラニーの暗黙知。野中・竹内の SECI モデル。システム思考の氷山。これは、ダブルダイヤモンドの時間軸に氷山の認識軸を重ね合わせる試みである。
氷山モデル ―― 問題解決、組織行動、ナレッジマネジメントで広く使われてきた比喩。水面下の暗黙(implicit / tacit)が、水面上の形式(explicit)を支えている。本稿はこの氷山を、ダブルダイヤモンドの時間軸に 横たえる ことから始まる。
著者の手描きスケッチ(原図)― ノートに描いたダブルダイヤモンドの中心に “water line” を引き、上に “Explicit”、下に “Implicit & tacit” を書き入れた瞬間。Problem Space と Solution Space が、水面の上下それぞれに伸びていた。左上の染みは、閃いたときに慌ててコーヒーをこぼした跡 ―― oops.
ダブルダイヤモンドの時間軸のなかに、氷山(暗黙と形式の縦軸)を横たえる ―― 二つの先行モデルの交差点として生まれた、ひとつの試論。
ダブルダイヤモンドが沈黙してきたもの
The Double Diamond ―― 英国デザイン協議会(2005)が公表した、デザインプロセスの共通言語。発散と収束を二度繰り返す。出典: Design Council, “The Double Diamond”
2005 年に英国デザイン協議会が公表したダブルダイヤモンドは、いまや世界中のデザイン教育・実務で共通言語になっている。Béla H. Bánáthy が 1996 年に提示した発散-収束モデルを下敷きに、Discover、Define、Develop、Deliver の四つのフェーズでプロジェクトを記述する。発散と収束のリズムを視覚化し、問題空間と解空間を分離する、強力なフレームワークだ。
この図の最大の強さは、抽象度と一般性の高さにある。 業界・規模・領域を問わず適用できる ―― だからこそ世界中で普及した。プロダクト開発でも、サービス設計でも、組織変革でも、 同じ図で語れる という強度がある。
しかし、その一般性の代償として、長く実務に関わっていると、この図では語りきれないものがあると感じてきた。限界は四つある。
第一に、時間軸で「順序」 は語れるが、プロセスの「質」 は語れない。フェーズの移行は示されるが、そのなかでどれほどの密度で潜ったかは、図には表れない。
第二に、発散と収束の 幅 しか描けない。横方向の動きはあるが、 深さ が存在しない。
第三に、形式偏重に流れやすい。可視化された成果物 ――プレゼン資料、プロトタイプ、仕様書―― だけが評価対象になりがちだ。
第四に、暗黙知の役割が明示されない。優れたデザイナーが実際に依拠している身体知、直観、現場の気配を読む力が、モデルの語彙に含まれていない。
「いつ何をやるか」 までは語れる。だが、 「どの深さで、どのくらい射程を伸ばしてやるか」 を、モデルは沈黙してきた。
浅い探索(Small Search)は、問題定義の射程そのものを縮める(Small Problem)。Reach の差が、見える問題の大きさを決める。
ダブルダイヤモンドはいま、世界中のワークショップで、新規プロダクト企画で、組織変革の合意形成の場で、共通言語として使われている。けれど現場のアイディエーションは、しばしば既存の技術や既に言語化された対象の組み合わせに留まる。表層をなぞる議論。形式の上を滑る対話。
水面下の暗黙を地図上に明示することで、ワークショップや対話、思考そのものの質を変えられないか ―― 本稿が補助線を一本引いた、本当の動機はそこにある。
水面線という補助線
ダブルダイヤモンドに、水面線という一本の横軸を足す。形式と暗黙の境界が、はじめて図のなかに現れる。
二つのダイヤモンドの中心を貫く水平軸。これが 水面線(water line) である。
水面線より上は、形式化されたもの、可視化されたもの、他者と共有可能な知の領域だ。言葉にできる調査データ、定義された問題文、明文化された仕様書がここに属する。
水面線より下は、暗黙のもの、身体化されたもの、まだ語りえない知の領域。現場で感じた違和感、チームで共有される言語化以前の方向感、素材を触る手の感覚がここにある。
ここで、 探索の射程 という言い方をしたい。同じ「Discover をやった」 という言葉でも、数日のデスクリサーチと数ヶ月の参与観察では、下方向のアングルと距離がまったく違う。水面下にどこまで潜り込んだか、暗黙にどれだけ深く触れたか。その射程の角度が、ダイヤモンドの形を歪める。
そして、 面積 = 触れた暗黙知の総量 だ。各フェーズで暗黙知に対して伸ばしたアングルが、そのフェーズの面積を決める。面積が広いほど、デザインの基盤は強くなる。
二重氷山(Double Iceberg)―― 四つのフェーズが、それぞれ水面の上(Explicit)と下(Implicit / Tacit)の両方に伸びていく。水面下の射程こそが、本論で見たい領域だ。
線は揺れる ― 波として描き直す
水面線を単なる直線として描くことは、形式と暗黙の境界が静的であるかのような誤った印象を与える。実際のデザインプロセスでは、両者の境界は時間とともに揺れ動く。水面下と水面上を行き来し、浮かんでは沈むプロセスを繰り返す。
したがって、水面線は 波線 として描かれるべきだ。
この水面波線には三つの特性がある。
波長 はイテレーションの周期を表す。波長が短ければ、高速なアジャイル反復になる。波長が長ければ、深い潜水を伴う探索になる。
振幅 は、形式と暗黙の往復の深さを表す。振幅が小さい線は表面でしか動いていない。振幅が大きい線は、何度も深く潜って、形式知の岸へ戻ってきている。
位相 は、ダイヤモンドの幾何学的位置との同期関係を表す。Discover の中心で深く潜るか、Define の入口で潜るか。タイミングがプロジェクトの質を変える。
この 動き こそが、デザインの質を決める。
水面が波として揺れる ―― 形式と暗黙の境界は、時間とともに浮き沈みするリズムを持つ。
八つの場 ― 2×2×2 の構造
水面線(波線)とダブルダイヤモンドを重ね合わせると、各ダイヤモンドが上下に分かれ、合計で 八つの三角形 が現れる。
ダイヤモンド 1 か 2(問題空間か解空間)。左半か右半(発散か収束)。水面上か水面下(形式か暗黙)。三つの二項選択の交差点が、八つの場をつくる。2 × 2 × 2 = 8。
八つの場を、ひとつずつ短く素描してみる。
① Discover-形式:表向きの調査、KPI 設計、既存データの確認。市場規模、競合マッピング、ユーザー属性データ。ここで集まる情報は明文化されていて、共有可能だ。
② Discover-暗黙:エスノグラフィー、身体的共感、現場の違和感、文脈の身体化。インタビュー相手の沈黙が何を語っているか、現場の匂いがどんな運用を支えているか。言葉になる手前の手触り。
③ Define-形式:問題定義文、要件整理、How might we 形式の問い。ここは形式の場の中心だ。
④ Define-暗黙:言語化以前のチーム内の「これは違う」 という直観。問題定義の文字列の背後に、皆が共有しているがまだ言葉にならない方向感。
⑤ Develop-形式:プロトタイプ、ワイヤーフレーム、仕様書、コード。
⑥ Develop-暗黙:素材を触る感覚、職人的なクラフト感、デザイン判断の身体知。プロトタイプを握ったときの「これは違う」 という手の側からの応答。厨房で言えば、火を入れた瞬間にレシピを書き換える、あの判断に近い。
⑦ Deliver-形式:最終納品物、ローンチ、ドキュメント、運用マニュアル。形式化の最終形。
⑧ Deliver-暗黙:受け手の身体に届く前、形式の裏に残る思想。製品が運ばれる先で、ユーザーの暗黙の習慣のなかに沈み込んでいく時間。
これらの場は、固定された区画ではない。隣り合う場は継承を起こす。② Discover-暗黙で得た現場の身体感は、③ Define-形式で問題定義文に表出化される。あるいは ④ Define-暗黙のままの直観が、⑥ Develop-暗黙のプロトタイプ判断にそのまま渡っていく。
そして、本モデルでもっとも重要な線が一本ある。
②→⑦ の貫通ライン 。
Discover-暗黙で得たもっとも深い現場の発見が、Deliver-形式の最終納品にまで届いているか。この対角線が引けるプロジェクトと、引けないプロジェクト。その差が、デザインの質を決定的に分ける。
立派なリサーチをしたのに、最終納品物の細部にその発見が宿っていない ―― ②→⑦ が途切れている。これがもっとも頻繁に起きる失敗の構造だ。
二重氷山(Double Iceberg)―― 各フェーズは、上方向(Explicit / 形式)と下方向(Implicit / Tacit / 暗黙)の両方に reach を伸ばしうる。図はその 動的な広がり を矢印で示している。
八つの場 ―― Discover / Define / Develop / Delivery の時間軸と、Explicit / Implicit(Tacit) の認識軸が交差して生まれる 2×2×2 = 8 の場。①③⑤⑦ は形式の場、②④⑥⑧ は暗黙の場。
一つのフェーズに焦点を当てる ―― Discover-Define のダイヤモンドは、それ自体が問題空間の四つの場(①②③④)を内包する小宇宙だ。
2つの知は互いを生成する
八つの場は静止画ではない。場のあいだに 動き がある。
その動きは、物理学の電磁波に近い。
電場が変化すると、その変化が磁場を生む。磁場が変化すると、その変化が電場を生む。電場と磁場は直交しながら、互いを生成し、第三軸方向へと伝播していく。電磁波の構造だ。
本モデルでの読み替えはこうなる。 形式知の場(電場に対応) と 暗黙知の場(磁場に対応) が直交している。形式知が動くと、暗黙知が呼び覚まされる。プロトタイプを触ったとき、新しい違和感が水面下から湧いてくる。逆に、暗黙知が動くと、形式知が更新される。身体感覚を言語化しようとした瞬間、要件定義が書き換わる。
そして第三軸 = 時間。形式と暗黙の往復が、プロジェクトという波を、時間軸に沿って前へ伝播させる。プロジェクトは、進む、というより、 伝播する 。
「初めに言葉ありき、初めに行動ありき」 ―― ゲーテのファウストの一節は、形式と暗黙のどちらが先かを問う問いを最終的に解体する。両者は相互生成する。形式化した瞬間に新たな暗黙が生まれ、暗黙の理解が次の形式化を要求する。
還元不可能なもの
ここで、本稿の哲学的な腰を据えたい。
水面下にある「暗黙のもの」 とは、いったい何なのか。
時間と労力をかければいつかは形式化できる「未だ言語化されていない」 ものなのか。それとも、どれほど言葉を尽くしても決して形式化できない「原理的に到達しにくい」 ものなのか。
水面下の「暗黙のもの」 を、どう 読む か。立場は、二つに分かれる。
ひとつは、暗黙知を「未だ言語化されていないもの」 として捉える。適切な手法と時間さえあれば、いつかは形式知に変換できる。野中の知識創造論はこの色合いが濃い。
もうひとつは、暗黙知を「原理的に到達しにくいもの」 として捉える。どれほど精緻にモデルを構築しても、決して形式化できない残余がある、という確信。Polanyi の “We know more than we can tell”(語りうる以上のことを、我々は知っている)は、僕の立場はこの後者に近い。
本モデルはどちらに立つのか。 ―― その答えに行く前に、しばらく薔薇の話をしたい。
庭で、僕が育てている薔薇が咲いている。
写真には写らない美しさが、確かにあるのだ
花びらの色合い、個性豊かな香り、風に揺れる立ち姿 ―― どれをとっても、言葉には表し尽くせない美しさがある。レンズとセンサーや言語では捉えられないなにかがある。
これは僕が以前にも書いたことだ。書き留めようとするたびに、 言葉にはできない体験 が、しずかに残る。色を「赤」 と呼んだ瞬間、その赤が宿す温度は言葉のすき間からこぼれていく。香りを「甘い」 と呼んだ瞬間、その甘美な瑞々しさは消える。揺れる影に名前を付けようとすれば、揺れそのものが止まってしまう。
これが、 還元不可能 ということだ。
釘を打つ手のひらの感覚。自転車のバランス。友人の顔を識別する力。包丁の刃が魚の身に入ったときの抵抗。そして、薔薇の美しさ。これらは、言葉に書き出すことを拒むわけではない。書き出した端から、書き出されなかったものが、あらわになる。
デザインの現場で、僕たちがしばしば直面するのは、この種の知だ。深く潜って得た手触りや直観を、いざプレゼン資料に落とそうとすると、どうしても零れ落ちるものがある。書き出した瞬間に、薔薇の美しさのように、核心が逃げていく。
それでも、料理人は皿を飾る。デザイナーは形を描く。経営者は決断する。「なぜ良いのか」 を完全に説明できないまま、 身体は知っている 。そして、その身体知に応えるかたちで、形は生まれる。
本モデルは、この 語れない領域 を、 水面下の場(②④⑥⑧) として地図に置いておく。言語化できないものを、言語化を拒むまま、その存在の位置だけは確保する。
僕は、この立場に立っている。
暗黙の場 ―― ②④⑥⑧ ―― に留まるものを、無理に水面上へ引き上げない。形にすれば失われるものを、形のないまま尊重する。
地図は、現地ではない ―― けれども、地図は、現地に降り立つことを助けるためにある。
あなたのプロジェクトを描く
Aim is the work. ―― どこを狙ったかが、作業そのものになる。How far / How long / How deep ―― 三軸で、自分のリーチを測る。
ここまでで、語彙はあらかた揃った。あとは、これを道具として使う番だ。
その前に、ひとつだけ確認しておきたい。 ダイヤモンドの形は、プロジェクトごとに違う。
時間軸の長さ、Up Reach と Down Reach の深さ、各フェーズに注いだ熱量。何にどれだけ質を追い求めたか。その配分の違いが、プロジェクトの形を決める。整った左右対称の図は、現実にはほぼ存在しない。
ダイヤモンドの形は、プロジェクトごとに違う。「いい形」 は一つではない。歪みが、そのプロジェクトの個性であり、診断の手がかりだ。
任意のプロジェクトを本モデルで診断する手順は、紙とペンがあれば誰でも始められる。
1. 時間軸の確定 ―― 横軸にプロジェクトの開始から終了までを配置する。数週間のスプリントか、数年の長期戦か。スケールを紙の上の距離として固定する。
2. 4 フェーズの境界 ―― Discover、Define、Develop、Deliver の境界線を引く。均等に分割する必要はない。実際の時間の比重をそのまま反映させる。
3. 水面線(波線)を引く ―― 形式と暗黙の境界の概形を描く。現場に潜り込んでいた時期は線を深く沈め、ドキュメント作成やプレゼンに追われていた時期は水面上へ持ち上げる。
4. 各場の活動を列挙 ―― 八つの三角形それぞれに、実際に行った活動を 3〜5 個ずつ書き出す。①には定量データ、②には現場でのエスノグラフィー、⑤にはプロトタイプ、⑥には素材を触るなかで得たクラフト感。
5. 角度と面積の調整 ―― 書き出した活動の比重に応じて三角形を変形させる。1 週間のアンケート調査と半年の住み込み調査では、下方向のアングルがまったく違う。面積 = 触れた暗黙知の総量。歪みとして描く。
6. 歪みの観察 ―― 大きすぎる場、小さすぎる場、空白の場を特定する。立派な問題定義文(③)があるのに、共有された身体的問題感(④)が空白、というのはよくある。その歪みが病理を可視化する。
7. ②→⑦ の貫通ラインを引く ―― 最深の発見が最終納品に届いているかを確認する。途切れていたら、どこで途切れたかを記す。
この手順で描くと、構造的な欠陥が幾何学的な歪みとして現れる。これまで観察してきた典型的なパターンは、おおよそ六つに整理できる。
(1) コンサル型 ―― 形式の場(①③⑤⑦)だけが大きく、暗黙の場が空白。データもプレゼンも整っているが、現場の気配と身体的共感を欠く。頭で組まれたプロジェクト。処方箋は、②と④への滞在時間を強制的に確保することだ。
(2) 職人型 ―― 暗黙の場(②④⑥⑧)が肥大し、形式の場が痩せている。良いものができているが、なぜ良いかを他者に説明できず、スケールしない。③と⑦への言語化を組み込む必要がある。
(3) 急ぎ型 ―― 波線の振幅が小さく、全体的に水面下の射程が浅い。短期化の圧力で深く潜る時間が奪われている。表面の情報だけで解決策に飛びついている。
(4) 探検型 ―― 振幅は大きいが、②→⑦ の貫通ラインが引けない。深い発見はあるのに、最終納品物に届かず、途中で消えている。問題理解を解設計に翻訳する人の不在。
(5) Define 偏重型 ―― ③④だけが膨らみ、⑤⑥が痩せる。問題定義に熱量を注ぎすぎて、解の探索が間に合わない。第 1 ダイヤモンドにタイムボックスを切って強制的に手を動かすフェーズへ移す。
(6) Deliver 偏重型 ―― ⑦⑧ だけが大きく、①〜④ の探索が浅い。問題を疑わず「とりあえず作る」 モードに入っている。第 1 ダイヤモンドへの投資を強制する。
六つの失敗類型 ―― コンサル型から Deliver 偏重型まで、それぞれが幾何学的な歪みとして二重氷山に現れる。①〜⑧ のどこが膨らみ、どこが痩せているか、そして ②→⑦ が引けているか。形が、病理を語る。
Overengineering を避ける。“Use a sledgehammer to crack a nut.(牛刀割鶏)” ―― KISS / YAGNI と古典が同じことを言っている。 課題に見合った解を釣り合わせる ―― これが、本論を閉じる Fit for purpose の前提だ。
Fit for purpose. ―― 「いい形」 とは、整った左右対称のことではない。プロジェクトの目的に合った歪みを、自分の手で描けたかどうか。
道具として使うときに、いちばん大事なのは「綺麗に描こうとしない」 ことだ。歪みや空白こそが、プロジェクトが抱えていた本当の課題を語る。料理人が皿を見て「ここが足りない」 と言うように、図を見て「ここが空いている」 と言える。それで充分だ。
紙の上で線を引くという小さな運動が、プロジェクトの記憶を引き出す。手で描いた歪んだ二重氷山は、整ったスライドより、ずっと多くを語る。
このモデルの強み
このモデルの強みは、既存のプロセスを変えずに使えるところにある。ダブルダイヤモンドで進めているサービスデザインも、アイディエーションワークショップも、進め方そのものは触らなくていい。フレームワークとメタファーをこのモデルに差し替えるだけで、参加者は自分自身の暗黙知や身体知に意識を向けはじめる。
感覚や身体知を言葉に変換する作業は、これまで深い内省と対話、そして熟練したファシリテーターの介在を必要としてきた。けれど、この図が一枚あれば、自分の目的、身体知、言葉にならない感覚に、参加者は自ら目を向けることができる。
新規事業企画でも、サービスデザインでも、これからあなたが取り組もうとしているワークに、ぜひこのモデルを使ってみてほしい。
試論として
この 二重氷山モデル(Double Iceberg Model) は、確定した理論ではない。あくまで試論である。命名も暫定であり、より適切な比喩が見つかれば変更されうる。閉じた体系としてではなく、開かれた作業ノートとして公開する。
線が一本引かれただけで、見慣れた風景が変わって見えた ―― その小さな驚きを、共有可能な語彙に翻訳しようとして、ここまで書いた。
この線が、本当に景色を変えるものか。確かめるのは、ここから先の実践においてだ。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
あなたが最近関わったプロジェクトで、 言葉にしきれなかった理解 は、図のどこに位置していたでしょうか。 あるいは、 「いい形」 が左右対称ではなかったプロジェクト の記憶はありますか。
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それでは、また次の投稿をお楽しみに。
背景にある考え方
本論で深く展開できなかった、しかし議論の地下水脈になっている概念や思想を、入口として置いておきたい。
本文で言及した参照点:
- Michael Polanyi「The Tacit Dimension」(1966) ―― We know more than we can tell というテーゼで暗黙知の概念を確立した古典。焦点的意識と随伴的意識の二重構造は、本モデルの水面線の哲学的基礎。
- Ikujiro Nonaka & Hirotaka Takeuchi「SECI モデル」(1995) ―― 共同化・表出化・結合化・内面化のスパイラル。本モデルが時間軸方向に展開しようとした 2×2 の元構造。
- Béla H. Bánáthy「発散-収束モデル」(1996) ―― ダブルダイヤモンドの幾何学的源流。
- Design Council「Double Diamond」(2005) ―― 本論が補助線を引いた地図そのもの。https://www.designcouncil.org.uk/resources/the-double-diamond/
- Kurt Lewin「Field Theory」(1951) ―― 場(Field)を力線が引かれた空間として捉える社会科学の系譜。八つの場の遠い背景。
- Martin Heidegger「Sein und Zeit」(1927) ―― 手前性 / 手元性 / 世界内存在の三層。水面線の存在論的読みの基礎。
- Iain McGilchrist「The Master and His Emissary」(2009) ―― 左右半球の非対称性。水面上 / 水面下の脳科学的対応物。
- Alfred Korzybski「The Map Is Not the Territory」(1933) ―― 地図と現地の区別。本論の地盤。
本文では深掘りしなかったが、本論を支えている概念:
- Donald Schön「reflection-in-action」(1983) ―― 行為のなかの省察。波線の哲学的基礎の一つ。
- Maurice Merleau-Ponty「身体性の現象学」 ―― 思考に先立つ、身体と世界の絡まり合い。
- James Clerk Maxwell「電磁場の比喩」(1861-1865) ―― 電場と磁場が直交し、互いを生成する物理学的構造。
- Suoheimo et al.「Iceberg Model of Design Problems」(2020) / Berret & Munzner「Iceberg Sensemaking」(2022) ―― デザインと氷山を交差させた近接研究。
- Goethe「Faust」 ―― 「初めに言葉ありき、初めに行動ありき」。言葉と行為の相互生成。
※ 本原稿は、著者である私(瀧坂義尚)の実体験と思考を、AI との対話を通じて深め、AI との協働で構成・執筆した上で公開しています。Powered by Gemini and Claude.
※ 本稿は試論(thought experiment)であり、読者からの応答を受け取りながら磨いていく途上のモデルとして提示されます。
※ 本文中の図解の一部は、本記事の執筆後、AI と協働で生成したものです。
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